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はじめに|なぜデザイナーとクライアントは対立するのか?
プロジェクトの進行において、デザイナーとクライアントが対立する場面は少なくありません。
「デザインをもっと洗練されたものにしてほしい」と言われたデザイナーが、「洗練された」の定義が曖昧なまま作業を進めることで認識のズレが生じることがあります。
あるいは、デザイナーが考え抜いたレイアウトに対し、クライアントが「とにかく文字を大きくして目立たせてほしい」とリクエストし、デザイナーが「その変更は美しくない」と反発するなど。
こうしたやり取りの積み重ねが、プロジェクトを停滞させ、最悪の場合は関係がこじれてしまう原因になることはよくあります。
そもそも、デザイナーとクライアントが対立する背景には、それぞれの立場や目的の違いがあることを認識しましょう。
クライアントの視点
- 「ビジネス成果」を重視し、売上や認知度向上を目的とする
- 「競合と差別化できるか?」を気にし、よりインパクトのあるデザインを求める
- 「デザインは感覚的なもの」と考え、意見を言うが、根拠が言語化されていないことが多い
デザイナーの視点
- 「デザインの美しさ」や「使いやすさ」を優先する
- こだわりを持ち、専門的な視点で最適な表現を考える
- クライアントの修正指示に対して、「このままではクオリティが下がる」と感じることがある
こうした価値観の違いが、そのまま対立へとつながる。
では、このギャップをどう埋めるべきか。
その役割を担うのがディレクターなのです。
1. ディレクターが果たすべき役割とは?
ディレクターは、クライアントとデザイナーの間に立ち、両者の視点を理解しながら、プロジェクトを最適な方向へ導く調整役。「デザイナーのこだわり」と「クライアントのビジネス視点」を対立させるのではなく、適切なバランスを取ることが求められます。
POINT
期待値のすり合わせを行う
対立を防ぐためには、プロジェクトの初期段階でクライアントの期待値を適切に設定することが重要です。
ディレクターが以下の点を明確にすることで、デザイナーとクライアントの間で認識のズレが生じにくくなります。
- クライアントが求める「成果」は何か(売上向上、ブランド価値の向上など)
- デザイナーが考える「最適なデザイン」とのギャップをどう埋めるか
- デザインに対する評価基準を明確にし、感覚的なフィードバックを減らす
例えば、「かっこいいデザインにしたい」という要望が出た場合、ディレクターが「どのような要素が“かっこいい”と感じるのか?」を具体的に言語化すること。「モダンな配色」「タイポグラフィにこだわる」「無駄を省いたミニマルなデザイン」といった方向性を整理し、デザイナーが解釈しやすい形に落とし込むことが重要です。
POINT
フィードバックの流れを整理する
フィードバックが感覚的なままだと、デザイナーはどこをどう修正すべきか判断しづらくなります。
ディレクターがクライアントのフィードバックを整理し、デザイナーに「具体的なアクション」として伝えることで、スムーズに対応できるようになると考えられます。
例えば、クライアントが「もう少し高級感を出してほしい」と言った場合、以下のように具体化できます。
- 「配色をダークトーンに変更する」
- 「フォントを洗練されたものに変える」
- 「画像のコントラストを調整し、落ち着いた印象にする」
ディレクターがこのようにフィードバックを整理することで、デザイナーは納得感を持って作業を進めることができます。
POINT
デザインの意図をクライアントに伝える
クライアントがデザインに対して修正を求める場合、その意図が「主観的な好み」なのか、それとも「ビジネス的な必要性」なのかを見極めることが重要。ディレクターがクライアントに対して、「なぜこのデザインが最適なのか?」をロジカルに説明することで、無意味な修正を防ぐことができるはずです。
例えば、「もっと目立たせてほしい」とクライアントが言った場合、以下のようなアプローチが考えられます。
- デザイナーの視点:「現状のバランスが崩れるので、大きくするのは避けたい」
- クライアントの視点:「ユーザーにとって、ここが重要なポイントであることを伝えたい」
- ディレクターの調整:「サイズを変えずに、色や配置を工夫することで目立たせる方法を提案する」
このように、クライアントの要望の裏にある本当の意図を探り、デザインに反映する最適な方法を提示することが、ディレクターの重要な役割の一つであると考えます。
2. 具体的なディレクション技術
クライアントとの期待値を管理する
修正回数が増えすぎたり、仕様変更が繰り返されるのを防ぐためには、期待値を適切にコントロールすることが欠かせません。
ディレクターは以下のような方法で、クライアントとの認識を事前にすり合わせます。
- 修正回数のルールを明確にする:「3回まで無料」「それ以降は追加料金が発生する」など
- 仕様変更の影響を伝える:「この変更を入れると、納期が1週間延びる」
- フィードバックを段階的に受ける:「デザインの方向性を決めてから、細部を詰める」
クライアントが「なんでも直せる」と思っていると、後から無制限に修正が発生してしまいますが、ディレクターがルールを定め、変更の影響を伝えることで、無駄な工数を減らし、スムーズな進行が可能になります。
制作チームのこだわりを、クライアントの目的に落とし込む
デザイナーは、クオリティを追求するあまり、ビジネス的な要求と対立することがよくあります(よく見かけます)。ディレクターは「どこまでこだわるべきか?」の判断をし、最適なバランスを見つける役割を担います。
- デザインの細部にこだわるのではなく、目的達成のためのデザインにする
- 「絶対に譲れない部分」と「調整可能な部分」を整理する
- クライアントの要求を受け入れるだけでなく、プロとしての視点から提案する
このように、デザイナーのこだわりを尊重しながらも、クライアントの目的に寄り添った調整を行うことがディレクターの役割であると考えます。
まとめ
デザイナーとクライアントの対立は、両者の視点や目的が異なることによって生じる。これを認識しているディレクターが適切に間に入ることで、以下のような調整が可能になるのです。
- クライアントの要望を具体化し、デザイナーに伝える
- デザイナーのこだわりを、クライアントのビジネス目的に落とし込む
- 修正や仕様変更のルールを明確にし、無駄な工数を削減する
ディレクションが適切に機能すれば、クライアントと制作チームの摩擦は減り、プロジェクト全体のスムーズな進行が実現できます。ディレクターの役割を正しく理解し、クライアントと制作チームの間に立って調整を行うことで、より良い成果物を生み出していきましょう。